ライジング・フェニックス パラリンピックと人間の可能性
このドキュメンタリーでは、いまや世界で3番目に大きいスポーツイベントとなったパラリンピックの歴史をひも解きながら、障がいや多様性、人間の可能性に対する考え方を変革し続けてきた、パラリンピックムーブメントの特別な物語に迫る。
ムーブメントの原点は、「パラリンピックの父」とされる、神経学者で医師のルートヴィヒ・グットマンにある。
本人の肉声や当時の資料写真&映像、娘エヴァ・レフラーのインタビューを交えて、グットマン博士の人物像も深く掘り下げている。
グットマン博士は、ナチスによる反ユダヤ主義が台頭するドイツからイギリスに家族とともに亡命。
第2次世界大戦中、戦闘により脊髄を損傷するなど、障害を持つことになった帰還兵の治療にあたった。
身体的・精神的なリハビリテーションにスポーツが最適であると考えた博士は、入院患者を集めて競技大会を開催する。
これが、やがて国際大会として発展し、1960年ローマ大会の時に開催された競技会が、パラリンピックの第1回大会となる。
この作品の中で、言及されていないが、「パラリンピック」という名称が全面的使用されるようになったのは、1964年の東京大会からだ。
1980年モスクワ大会では、パラリンピックの開催を拒否した黒歴史もある(オランダが代替開催に名乗りをあげてアーネムパラリンピックが開催された)。
1986年アトランタ大会はオリンピック組織委員会がパラリンピックを運営せず、2004年アテネ大会はテレビ中継の映像でガラガラの観客席が悪目立ちするなど、「簡単にできたらパラリンピックじゃない」という関係者の言葉が洒落にならない。状況が変わってきたのは2012年ロンドン大会から。
本作では、スポーツ好きで知られるヘンリー王子もインタビュー出演し、「スポーツはきっかけです、この世の中でスポーツほど人を暗闇から救えるものはありません」「グッドマン博士は気づいたのです。スポーツムーブメントこそが世界中の人々の認識を変えられる」と、パラスポーツにも高い関心を寄せている。
本作では、2016年リオ大会で、深刻な資金不足で開催中止の危機に陥った“スキャンダル”も暴露している。チケットは販売不振というより、組織委員会がまともに売っていなかったらしい。大量に余っていることを知った地元の住民たちがチケットを買いはじめ、大会は尻上がりに盛り上がり、結果としてリオ大会は、パラリンピック史上最も観戦された大会となる。
このドキュメンタリー映画では、パラリンピック大会の歴史とともに、東京大会でも活躍が期待されるトップ選手も登場。不屈の精神で困難に立ち向かうパラアスリートが発信するメッセージを伝えていく。
フェンシングでオリンピック出場を目指していたが、髄膜炎になり炎症により両腕両脚を切断、不断の努力で車椅子フェンシングで金メダルを獲得したべべ・ヴィオ。
先天的に両腕が欠損して誕生したが、「何でも挑戦させてあげよう」という両親の方針で何でもやりたいことに挑み、両脚を器用に使うパラ・アーチェリーに才能を発揮してパラ・アーチェリー選手として活躍するアメリカのマット・スタッツマン。
2歳の時に出来た珍しい腫瘍のせいで右足を切断したが、リハビリのために始めた水泳に才能を発揮したオーストラリアのエリー・コール選手。
アフリカ、ブルンジ共和国の部族紛争で脚を失ったが、練習を重ねて義足で走り幅跳びを6メートル以上跳ぶ走り幅跳びのスター、フランスのジャン=バティスト・アレーズ選手。
四肢欠損状態で生まれ、車椅子ラグビーでアグレッシブな才能を発揮し、ロンドンとリオに続き車椅子ラグビーで3連覇を狙うライリー・バット選手。
先天的下半身不随でアメリカのデボラ・マクファデンの養子になり、様々なスポーツに挑戦してアスリートの才能を開花させ、車椅子陸上はそのスピード感に夢中になって才能を発揮しパラアスリートとして注目される存在となり、高校で陸上部に参加するため「障害者が部活動の練習や学校対抗戦に参加出来る」よう訴訟を起こし、「タチアナ法」を制定させ、短中長距離陸上7種目制覇を次回のパラリンピックで狙うタチアナ・マクファデン選手。
彼らは、不屈の生きざまと可能性を追求するパフォーマンスで、従来の障害者のイメージや偏見を変え、障害者が可能性を伸び伸びと追求出来る世の中を作る原動力となっている。
それは、パラリンピックのモットーである「スポーツにより可能性を追求し自信に繋げ障害者の可能性を広げて障害者のイメージを変えていく」概念を具現化した姿。
アメコミ映画のスーパーヒーローのように、困難にぶつかっても強靭な意志と卓越した能力で乗り越えていくパラアスリートの姿の中にある生きざまとパラリンピックを開催していく困難に満ちた歴史を知り、パラリンピックでパラアスリートのパフォーマンスをより楽しむ意味で必見のスポーツドキュメンタリー映画。
「私たちパラアスリートはスーパーヒーロー。様々な困難を乗り越えて強くなってきた。
パラリンピックにはヒーローが集う」
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