小田急線無差別殺人未遂事件はフェミサイド

東京都世田谷区を走行していた小田急線の電車内で2021年8月6日、複数の乗客が切り付けられた事件。
共同通信や東京新聞など複数のメディアは、殺人未遂容疑で逮捕された容疑者の男が「幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思っていた」などと供述していると報道した。 
 事件を「女性であることを理由にした殺人」を意味する「フェミサイド」と関連付けて指摘する意見が上がっている。
今回の事件をめぐってはまだ詳細が判明していないこともあり、現時点で断定的なことを述べることはできない。
そのことを踏まえた上で、事件をきっかけに関心が集まった「フェミサイド」について、言葉が広がった背景や、何が問題となっているかを3つの視点でまとめた。
世界保健機関(WHO)は2012年の報告書でフェミサイドについて「一般的に、女性であることを理由にした意図的な殺人として、理解されている。しかしより広い定義では、女性または少女のあらゆる殺害を含む」と説明している。 
また、「フェミサイドは通常は男性による犯行で、しばしば女性の家族が関与する。特定の点で男性の殺人と異なり、多くの場合、フェミサイドはパートナーや元パートナーによる犯行で、継続的な家庭内の虐待、脅迫、性暴力や、女性がパートナーよりも少ない資産しか持たない状況が関わる」と解説している。
さらにフェミサイドには以下のタイプがあると分析している。
・親密な人(現在もしくは前の配偶者やボーイフレンド)による殺人 
・「名誉」関連殺人(性行為をしたことや婚外の妊娠などを理由に殺害される。多くの場合、加害者は家族の評判を守る、伝統に従うなどの方法として見ている) 
・持参金関連(主にインド亜大陸で見られる慣習で、結婚する女性が献上する「持参金」が不足するといったトラブルに起因するもの) 
・親密な関係ではない人による殺人(性暴力を伴うこともある)
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、フェミサイドの指標の一つである、家庭内やパートナー間の暴力による女性や少女の殺害について詳しく調べている。 
 世界では2017年、46万4千人が意図的な殺人の被害者となり、その8割が男性だった。加害者の9割も男性だった。 
 UNODCの報告書によると、殺人被害者の2割にあたる8万7千人が女性で、そのうち58%にあたる5万人が、パートナーや家族によって殺されたという。
世界で毎日137人の女性がパートナーや家族によって殺害されていることを意味している。親密なパートナーや家族間の殺人全体のうち、男性の被害者は36%であるのに対して、女性は64%に上り、UNODCは「男性が世界的に殺人の主な犠牲者であるにも関わらず、ジェンダーの固定観念や不平等の結果としての犠牲を女性が負っている」と指摘している。 
 UNODCの報告書では、フェミサイドについて世界的に標準化された定義がないため、それぞれの国がフェミサイドのラベルのもとに収集したデータは比較できず、この現象の規模を示すために使うことはできないと指摘。
フェミサイドの一つである、「親密なパートナーまたは他の家族によって行われた殺人の女性の犠牲者」については、国を超えて標準的な定義を持つ唯一の概念であり、データが得られるとしている。 
 日本については内閣府の調査によると、2018年に検挙された配偶者間の犯罪(殺人・傷害・暴行)は7667件で、そのうち9割は女性が被害者だった。
そもそもフェミサイドという言葉自体は、南アフリカ出身のフェミニストの活動家で、女性に対する暴力を調査・研究したダイアナ・ラッセル氏が、1976年に初めて公の場で使ったとされている。ラッセル氏はフェミサイドを「女性であることを理由に、男性が女性を殺害すること」と定義した。 
 2020年7月に亡くなったラッセル氏の訃報を伝えた英紙ガーディアンによると、ラッセル氏は、「フェミサイドは、殺人の背後にある女性嫌悪の動機を説明するために使われるべきであり、男性の暴力に対する意識を高め、キャンペーンを刺激する有用なツールである」としてこの言葉を使うことを決めたという。 
 国際社会では対策に向けた動きが強まっている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は2020年10月に開かれた世界女性会議25周年記念ハイレベル会合で、フェミサイドを含む女性に対する暴力を防ぐため、積極的な行動を呼びかけた。 
 国連の女性に対する暴力に関する特別報告者のドゥブラフカ・シモノビッチ氏は2020年11月の「女性に対する暴力撤廃の国際デー」に合わせて、新型コロナウイルスがフェミサイドや女性や少女に対する暴力に影を落としているとし、多分野の知識を活用した予防機関や国際的なフェミサイドの監視機関の設立を求めた。 
 それらの機関では、フェミサイドやジェンダー関連の殺害に関する比較可能で細分化されたデータを集める
▽フェミサイドの事件を分析し、予防策を推奨するーーことなどが義務付けられるべきだとしている。
いくつかの国では、すでにフェミサイドが社会問題として広く認識されている。深刻な国の一つがメキシコだ。CNNによると、メキシコでは新型コロナウイルスによる外出禁止令が出て以来、女性が犠牲者となる殺人事件が増加。2020年4月は267人が殺人事件の犠牲となり、過去5年間で最悪となった。
 さらに2020年の最初の4ヶ月で、987人の女性と少女が殺害された。そのうち308件がフェミサイドとして分類されているという。 
 フランスでは、家庭内暴力が深刻化し、フェミサイドに対する大規模な抗議デモに発展した。 
 フランスの国際放送France24によると、フランスでは2019年、173件の家庭内犯罪があり、146人の女性がパートナーや前のパートナーによって殺害された。
毎年20万人ほどの女性が家庭内暴力に苦しんでいると推定されている。2020年の女性の被害者は90人に減ったが、評価するには「時期尚早」と支援団体は指摘している。 
 フランスでは2019年、犠牲者となった女性の名前を書いたプラカードを掲げたデモや一人一人の名前を書いた布を橋の欄干に結びつけたりする抗議活動が活発化した。 
 ブラジルでは2015年、性別に関連した殺害の増加を食い止めるため、フェミサイドが厳罰化された。
 8月6日午後8時半ごろ、帰宅ラッシュの電車内で事件は発生した。
小田急線「成城学園前」―「祖師ケ谷大蔵」間を走っていた藤沢発新宿行きの快速急行に乗っていた男が20代の女子大学生の胸や背中などを長さ約20センチの包丁で刺した後、周囲にいた9人の乗客に次々と襲いかかった。
 「男は先頭から4両目の車両から2両目までを移動しながら、複数の乗客を手にした包丁で切りつけていった。
女子大学生は7カ所を刺され重傷で他の9人は命に別状はない。3両目では食用油をまいて火を付けようとしたらしい。牛刀も準備していた。その後、自ら非常用ドアコックで緊急停車させて祖師ケ谷大蔵駅近くで包丁や携帯電話を放置して線路上を徒歩で逃げた」(捜査関係者) 
警視庁はその後、現場から約4キロ離れた杉並区高井戸のコンビニで男の身柄を確保した。
殺人などの容疑で逮捕されたのは、川崎市多摩区に住む職業不詳の対馬悠介容疑者(36)だ。 
対馬容疑者は店員に「ニュースに出ている犯人は俺です。逃げるのに疲れた」と名乗り出たことから店員がすぐに110番したという。 
 「男(対馬容疑者)は10人以上の警察官に取り囲まれながらパトカーの後部座席にすぐに乗せられていた」(目撃者) 
捜査一課の調べに対して対馬容疑者は「幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになった。誰でもよかった。刃物がうまくいかなければ、電車内で油を撒いて火をつけようと思った。逃げ場がない電車なら大量に人を殺せる」などと供述しているという。 
対馬容疑者は当日、都内の食料品店で万引きしたとして店から通報され警察の事情聴取を受けていたという。
その際に対馬容疑者はカッターナイフを所持していたという。警察官に説諭され、自宅まで送り届けられた対馬容疑者はその後刃物や油を持って小田急線に乗り込んだとみられる。
「対馬容疑者は通報した食料品店の女性を襲撃しようと店に引き返そうと考えたが閉店していると考え、乗り込んだ電車内での犯行を決めたという趣旨の供述をしている」(前出の捜査関係者)
 取材によれば、青森県出身で、都内の高校を卒業後、中央大学理工学部に進学したという対馬容疑者。
調べに対し、「大学のサークル活動の時に女性から見下された」「出会い系でデート代を多く払わされたりした。幸せそうな勝ち組の女性を見ると殺したくなる。」こう供述。 
 大学を離れた後は職を転々としていたといいます。 
高校の同級生は、対馬容疑者からこんな話を聞いていました。
 ーー高校卒業後も交流はあったのか? 
 高校の同級生:卒業してからは多分2・3回あったぐらい。その時は仕事していなくて、『職業ナンパ師』って言ってました。三軒茶屋駅とかでナンパするのが好きっていっていたので、結構ナンパしてそういう関係になるのが女子高生とかで。 
 なぜ、「ナンパ師」と自称していた対馬容疑者が、女性に対して一方的に敵意を抱くようになったのでしょうか。自宅を訪れるといまの生活状況が見えてきました。
田中良幸キャスター:対馬容疑者は4年以上前からこちらのアパートで1人暮らしをしているということですが、近所づきあいは全くなかったということです。 
外の窓を見てますと割れた部分を粘着テープで直したような跡が見られますね 
 部屋の窓が割れ自分で補修したのでしょうか。粘着テープのような物が窓に貼られ継ぎ接ぎのようになっています。 
住民に許可を得て、同じタイプの部屋に入りました。 
 田中良幸キャスター:1Kタイプの部屋という事で入ってすぐにこういった形でキッチンがあります。 
反対側にはトイレとお風呂になるわけですけれども、その奥に6畳くらいの部屋が広がる形です。冷房やクローゼットが付けられた1人暮らし用の部屋。 
対馬容疑者が住んでいた部屋の家賃はおよそ2万5000円だといいます。 
 近隣住民:ひとり暮らしですね。住人とのトラブルはないです。私と付き合う分には全然普通の常識的な人でしたよ。 
 「常識的な人」これまで隣近所からはそう見られていた対馬容疑者。しかし、最近になって異変が生じてました。事件の5日前には、自宅で「ボヤ騒ぎ」を引き起こしていたのです。 
今月1日。対馬容疑者の部屋から白い煙が出ていることに気づいた近隣住民が消防に通報。 
この時、対馬容疑者の姿を見たという通報者は。通報者:今出回ってる顔と全然違った。髭がとにかくもじゃもじゃで髪もボサボサ、上半身裸だった。乱れた風貌だったと証言します。自宅から煙が出ているのに、慌てる様子もなく、駆け付けた消防隊員に対し、こう言い放ったと言います。「大丈夫なんでもう帰って下さい」 
 近隣住民が、出火原因を消防に尋ねたところ、サラダ油に火を付けすぎてちょっと焦がしたようだ、と説明されたということです。 
 車内で撒かれたものも「サラダ油」。今回の事件と、何らかの関係はあるのでしょうか。 
 事件発生の約2時間前には、警察官に付き添われて自宅に向かう対馬容疑者の映像がとらえられていました。 
実は、この日、新宿区内の食料品店で、万引きをした疑いで、女性店員から警察に通報されていました。
これは、自宅を確認するため、警察官と対馬容疑者が自宅を訪れた時の映像です。この万引きについて、このように供述しています。「店員が女性で殺してやりたいという気持ちが芽生えた」「女性店員に納得がいかなかった」食料品店は閉店していたため、電車での犯行に切り替えたという対馬容疑者。「ナンパ師」と自称していた時代を経て、風貌も乱れていたという直近の対馬容疑者。女性に対して抱いていた劣等感や屈折した感情と事件がどう結びついていったのか。その詳細は依然、明らかになっていません。
 「約6年前から幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになった」。
小田急線電車内で起きた刺傷事件で、殺人未遂容疑で警視庁に逮捕された対馬悠介容疑者(36)の供述に、女性だという理由だけで殺される「フェミサイド」だとして抗議する声が各地に広がっている。
11日は花を手に性暴力の根絶を願う「フラワーデモ」が全国38カ所で開催され、参加者らが「女性というだけで命を脅かされる社会はおかしい」と訴えた。 
世界保健機関(WHO)は、女性であることを理由とする殺人をフェミサイドと定義。動画投稿サイトでシンポジウム形式で開催されたデモでは、富山県出身の大学院生吉岡星せいさんが「事件は明白なフェミサイド。女性を意思や選択肢を持つ対等な人間と見ていない」と強調した。 
東京都八王子市の菱山南帆子さんは、事件への抗議を会員制交流サイト(SNS)に書き込んだところ、犯行に使われたのと同種の刃物の写真が、見知らぬ男からネットを通じ送られてきたという。
「女性が差別に声を上げることすら脅迫し妨害する社会を変えたい」と話した。 
コロナ禍での自粛疲れにより、DVが増え妊婦や子供に対する嫌がらせ行為が増え、女性を狙った殺人未遂事件が起こった。
日本社会に潜在的にあるミソジニー男尊女卑的な女性に対する逆恨み的な憎悪が、貧困などによる鬱屈と合わさって起こった事件。
女性同士の連帯はもちろんなんだけど、殺人やDVの当事者である男性に必要なのは、女性にお世話してもらって当たり前とか自己主張してバリバリ働いて輝いている女性の足を引っ張る男尊女卑的な価値観を捨てて精神的に自立した成熟した男性に脱皮してこのようなミソジニーによるフェミサイドを許さない姿勢を見せること。

daiyuuki 全身当事者主義

全身当事者主義。ワーキングプアや毒親やブラック企業などのパワハラやモラハラに苦しみ戦い続けてきた立場から書いた、主にメンタルヘルス、LGTB、ヘイトスピーチ、映画やライブのレビューなどについてのアメブロの記事から、厳選して共有していきたい記事だけ、アメブロと連携します。 クリエイターリンクは、こちら↓ https://lit.link/daiyuuki

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