兎の眼 灰谷健次郎
大学を出たばかりの新任教師・小谷芙美先生が受け持ったのは、学校では一言も口をきこうとせずハエを可愛がっているのが原因でトラブルを起こしている一年生・鉄三。
決して心を開かない鉄三に打ちのめされる小谷先生だったが、鉄三の祖父・バクじいさんや同僚の「教員ヤクザ」足立先生、そして学校の子どもたちとのふれ合いの中で、苦しみながらも鉄三と向き合おうと決意する。
そして小谷先生は次第に、鉄三の中に隠された可能性の豊かさに気付いていくのだった。鉄三のことを知るためにハエのことを勉強していく中で、鉄三はバイ菌のついているハエを飼わないことやハエ博士と呼ばれるくらいハエに詳しいことを知る。鉄三が興味あるハエの研究を小谷先生が手伝う中で、字や絵を書いたり勉強するようになった。
小谷先生は、鉄三と暮らすバク爺さんの壮絶な過去を知る。小谷先生は、鉄三の他の子の家をまわって子供の勉強をみたりするようになった。
伊藤みな子という走るのが好きな女の子が、小谷学級に転入してくる。みな子は自分のものと他人のものの区別がつかないので、隣の子の給食をとって食べたりする。
小谷先生は小谷学級の子と相談して、交代でみな子の世話役をするみな子当番をすることになった。
鉄三のハエの研究が、近くのハム工場のハエ対策に役立った。ゴミ処理場の移転に反対した子供がストライキしたり、小谷先生たちも子供たちと戦う。
学校と家庭の荒廃が叫ばれる現在、真の教育の意味を改めて問いかける。すべての人の魂に、生涯消えない圧倒的な感動を刻みつける、灰谷健次郎の代表作。 2006年11月に逝去された、故灰谷健次郎氏の文壇デビュー作。
1997年の神戸連続児童殺傷事件の報道姿勢に対して新潮社からの版権引き上げなど、政治的な立ち位置は賛否両論あろうが、本作について言えば、日本における児童文学の金字塔であると断言できる。
共に助け合い暮らしていく中で、個人個人が人間的に成長出来るし世界が良くなっていく。教育とは、育った環境が違う者同士が学び合うもの。
優しさとは、苦労や喜びを分かち合うこと、寄り添うことであることそして死んだ生き物の命に感謝をして生きることであることを、バク爺さんは拷問にあって裏切り死なせた親友の命を、足立先生は貧しさから子供の頃一緒にどろぼうした兄貴の命を背負い生きる生き方やゴミ処理場の子供たちの優しさとたくましさを通して描かれていて、時代を越えて読み継がれるべき児童文学の傑作です。
「人間が美しくあるためには抵抗の精神をわすれてはなりません」
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