『Black Box 伊藤詩織 | My Mind Note・ミュージック&ムービー中毒で全身当事者主義な日々』
真実は、ここにある。 なぜ、司法はこれを裁けないのか? レイプ被害を受けたジャーナリストが世に問う、 法と捜査、社会の現状。 尊敬していた人物からの、思いもよらない行為。 しかし、その事実を証明するにはーー密室、社会の受け入れ態勢、差し止められた逮捕状。 あらゆるところに〝ブラックボックス〟があった。 司法がこれを裁けないなら、何かを変えなければならない。 レイプ被害にあったジャーナリストが、自ら被害者を取り巻く現状に迫る、圧倒的ノンフィクション。
伊藤詩織さんは、2013年ニューヨークでジャーナリズムと写真の勉強をしていた。学費を稼ぐため、翻訳、ベビーシッター、ピアノバーでアルバイトをしていた。詩織さんの運命を大きく変えた山口敬之氏と出会ったのは、この時だった。
お客さんから山口氏を紹介された詩織さんは、「機会があったらワシントン支局を案内するから、ぜひメールしてください」と山口氏に名刺を渡された。その後、山口氏にワシントン支局を案内してもらったり信頼していた詩織さんは、日本テレビのインターンを経てロイター・ジャパンのインターンとして働いていた頃に次のインターンシップの受け入れ先を探してメディアの関係者にメールしていて、その中に山口氏がいた。山口氏は、「インターンシップなら即採用だが、君が本気ならプロデューサーでも検討します」と詩織さんにメールした。
詩織さんは、「ぜひプロデューサーに応募したい」と返信した。山口氏は、「フリーランスで契約して正式採用を目指すというやり方なら、自分の決済で決定出来る。就労ピザの取得などについて話し合いたいので、東京で会おう」とメールした。それが、2015年3月25日だった。
既に恵比寿の串焼き屋で呑んでいた山口氏は、詩織さんに「今日の目的は2軒目の寿司屋だからあまり食べないように」と言った。そこで詩織さんは、串焼き5本ともつ煮込みを食べ、小さいコップでビール2杯とワイン1から2杯飲んだ。
ところが山口氏は、一軒目の串焼き屋で「ワシントン支局は政治部だが、君は政治部に興味はあるか?」「君がインターンシップをしていた日本テレビの支局長から本当に良い評判を聴いているよ」と話すぐらいで、なかなか就労ピザなどについての具体的な話に入らなかった。2軒目の寿司屋で3杯目の日本酒を詩織さんが飲んだ時、突然調子が悪くなり、トイレに入った途端頭がぐらっとして給水タンクに頭を持たせかけて気を失ってしまった。詩織さんはお酒が強く、友人とお酒を飲む時は、介抱する側だった。
次に詩織さんが目を覚ましたのは、ホテルのベッドの上だった。詩織さんは、山口氏に何度も「痛い!痛い!」と訴えたが、山口氏は、行為を止めなかった。詩織さんは、山口氏に後ろ向きに抑え込まれ殺されるかもしれない恐怖と戦いながら、「一緒に働く予定の人間にこんなことをしてどういうつもり?」など罵倒して必死に抵抗した。
山口氏は、なだめるように「君のことが好きになっちゃった」「早く君をワシントンに連れて帰りたい。君は合格だよ」と言った。詩織さんの体は、アザや内出血だらけで胸はシャワーを当てることが出来ないほどだった。
詩織さんは、その日を含めて何が起こったか上手く整理出来ずに過ごした。日曜の頃から膝や股関節に痛みを感じ上手く歩けない詩織さんは、病院に行った。しばらくして詩織さんは、親友に自らの性被害を打ち明け、友人の支えもあり原宿署に山口氏を準強姦罪で訴えた。その後、詩織さんは山口氏に就労ピザについての問い合わせや自分にした行為について説明を求めるメールを送り続けた。それは、山口氏に詩織さんが警察に訴えたことを知られないためだった。山口氏は、「泥酔した君を介抱しただけ。精子の活動が著しく低いので妊娠の心配はない」と弁解するだけで、逆にピルを飲んでいたが月経が遅れ不安だった詩織さんにごまかすような言動を取り逆ギレして責めた。
山口氏が泊まっていたシェラトンホテルの入り口の防犯カメラには、山口氏が詩織さんの体を引き摺り運んでいる映像があった。タクシーの運転手の証言では、詩織さんが何度も「近くの駅で下ろしてください」と言ったことが分かった。後の検察審査会でのタクシーの運転手の証言では、詩織さんは何度も「近くの駅で下ろしてください」と言ったけど、山口氏は「まだ仕事の話がある、何もしないから」と拒んだ、とある。ホテルのハウスキーパーの証言では、山口氏が主張する嘔吐物はなく、山口氏が言うようにツインベッドが使われたのではなく、ツインベッドの片方しか使われず使用したベッドには血がついていたとある。
8月8日に山口氏が帰国する時に逮捕するために、高輪署のA氏をはじめ逮捕状を取り準備していたが、警察庁のトップから山口氏の逮捕にストップがかかり、高輪署のA氏など事件の担当者は外された。
詩織さんは、警視庁から山口氏を逮捕しなかった理由について、山口氏は社会的地位もあり帰国した時点で居場所が分かっているので証拠隠滅の恐れがないからと説明されたが、当時山口氏はTBSの人間ではないし日本にもアメリカにも住所がないと詩織さんへのメールで書いていたし、社会的地位があるから信頼出来るし証拠隠滅される恐れがないのはおかしいと詩織さんは思った。
担当検事は詩織さんに「山口氏のやったことは、ひどい。メールの文面や詩織さんへの言動から余罪があるのではないかと思う。だが準強姦罪を刑事訴訟で立証するのは難しい。刑事訴訟では被疑者の主観を元に判断するからだ。欧米では、防犯カメラの映像やホテルのドアマンの証言など客観的証拠を元に判断するが、日本はそうではない」と言った。山口氏に対する起訴は、検察審査会により不起訴不当となった。
詩織さんは週刊新潮で、今回の事件について当時身に付けていたブラジャーから山口氏のDNAが採取されたことまで話した。週刊新潮の取材に、当時の警視庁刑事部長中村格が、自らの判断で山口氏の捜査をストップしたことを認めた。週刊新潮の取材により、山口氏が当時の内閣情報官北村氏に「週刊新潮より質問状が来ています。伊藤の件です」と相談メールを送るつもりが誤って週刊新潮編集部に送ってしまったことも明らかになった。
世界各国で何故スウェーデンがレイプ発生率がナンバー1かというと、スウェーデンは警察内の女性警察官が多く被害者が被害届を出し易い。それにスウェーデンでは、レイプ被害者が駆け込めるレイプ緊急センターで検査や治療やカウンセリングを受けられるため、レイプ被害の証拠を保全しやすい。日本では、緊急外来でレイプ被害の検査を受けられる。
詩織さんが受けた準強姦罪を立証するには、大きい壁がある。それは、合意があったかどうかを立証するのが難しいから。70%のレイプ被害者は、被害の最中に体が動かなくなる「擬死状態」になるため、「拒否の意思が明確に被疑者に伝わったか」が物を言う日本の裁判では準強姦が立証するのが難しい。その壁を崩すには、強要があったかどうか、被疑者の証言の嘘を暴けるかしかなく、準強姦の要件を酒や薬などで自分の意思を相手に伝えるのが困難な状態に被害者がある場合は強要された状態と同じと認めるように現実に即した形に改正することが求められる。スウェーデンにあるようなレイプ緊急センターの設置、取り調べや裁判でのセカンドレイプなどの捜査や裁判システムの問題、「弱い人間を征服し支配したい」という欲望が引き起こす強姦という卑劣で残酷な魂の殺人を無くし立件出来るためにどうすれば良いか男女問わず読んで欲しい渾身のノンフィクションです。
0コメント