華氏 119

2016年11月9日、ドナルド・トランプは米大統領の勝利を宣言。 
2016年11月7日、投票日前夜、アメリカの人々は初の女性大統領の誕生を確信していた。だが、11月9日、当選者として発表されたのは、ヒラリー・クリントンではなく、「あり得ない」はずのドナルド・トランプだった。
「僕らはどれだけ彼を知っているだろう?」と、マイケル・ムーアは問いかける。娘のイヴァンカを異常なほど溺愛し、人種差別を堂々と表明し、独裁者など強い男が大好きで、女性にはセクハラ三昧。誰もが知っているそんなスキャンダルはしかし、トランプというモンスターの爪先ほどの情報にすぎなかった。
時は2010年にさかのぼる。トランプの古くからの友人であるスナイダーという大富豪が、ムーアの故郷であるミシガン州の知事に就任した。権力に目がくらんだ知事は、緊急事態を宣言して市政府から権限を奪い、代わりに自らの取り巻きを送り込んだ。2013年、スナイダーのもとを訪れたトランプは、友人が支配する街を見て、羨ましそうに「次に進むためなら仕方ない。国も同じかも」などと発言。さらにスナイダーは金儲けのために、黒人が多く住むフリントという街に民営の水道を開設するが、この水に鉛が混じっていた。だが、知事は頑として問題ないと主張し続ける。
時は再び選挙運動の真っ只中へ。そもそもアメリカは左寄りの国で、トランプの支持率は元々低い。リベラルな民主党が常に高い支持率を誇り、大統領選の得票数も、ヒラリーがトランプより300万票多く獲得した。では、いったい何があったのか? ムーアはこの国の根深い問題である、ひとり1票ではない“選挙人制度”と無投票数が絡み合い、トランプを支持する少数派がアメリカ全土の意志へと変わってしまう、恐ろしい“からくり”を明かしていく。
さらにムーアは、罪はトランプだけではないと、勝利だけに走り民主党のハートを失くしたビル・クリントン、労働者階級や若者から絶大な人気のあったバーニー・サンダースを降ろしてヒラリーを代表にするために、民主党が使った禁断の手を紐解いていく。
カメラは一転、腐敗した権力と闘うために、立ち上がった人たちを追いかける。フリントの汚染水問題に抗議する地域住民、「誰もやらないなら私がやろう」と下院に立候補した、1年前まではレストランで働いていたアレクサンドリア・オカシオ=コルテス、ウエストバージニア州で教師の低賃金に抗議するために決行されたスト、フロリダ州パークランドの高校銃乱射事件で生き残った高校生エマ・ゴンザレスの銃規制への訴え──。
激しくなる一方の抗議に追いつめられたスナイダー知事は、当時の大統領オバマに助けを求める。オバマとの対話集会が開かれ、市民は“私たちのヒーロー”が助けてくれると歓喜するが、あろうことか彼は壇上で水を飲むパフォーマンスを行い、人々を心底ガッカリさせる。
再びカメラがトランプに戻り、ムーアはヒトラーが暴走する前のドイツと今のアメリカとの共通点を挙げる。そしてヒトラーは、“ドイツ・ファースト”を掲げて人気を博した。トランプは今、2期目への選挙運動を始めている。「4年、8年、16年だっていい」などと口走りながら。もはや民主主義はそこにあるものではなく、守らなければならないものに変わったのだ。
果たして、世界一のトランプ・ウォッチャーとなったムーアが出した、未来のための答えとは──?
ドナルド・トランプが大統領になる兆しは、オバマ大統領時代からあった。従来の民主党支持者の労働者向けの政策を実行しても上手く票や寄付金が集まらず、大企業優遇する政策を主張し大企業から寄付金を集めるようになった。大企業優遇の民主党から離れた労働者層は、トランプを支持するようになった。
ミシガン州フリントでは、水道事業のコスト削減のために湖から川に水源を移し、劣化した水道管のせいで鉛汚染された水道水のせいで感染症などで死者が出たけど、フリントの知事スナイダーは何らかの対策を実行しなかった。住民の怒りの声を受けてオバマ大統領がフリントを訪れるが、集会で濾過した水道水をコップで飲むふりをするというパフォーマンスをし、濾過すれば安心と住民にアピールして対策を実行しなかった。
草の根運動で民主党の候補者になるためにウェストヴァージニア州予備選にバーニー・サンダースが出馬したけど、ウェストヴァージニア州予備選でヒラリーを破ったにも関わらず、民主党の重鎮がスーパー代議員制度(民主党の重鎮議員による特別投票)を使って票数操作して中間選挙出馬を断念するように圧力をかけられた。
こういった状況を打破するためにソーシャルメディアを使った草の根運動が、盛んになっている。フロリダ州パークランド高校での銃乱射事件のサバイバーが、トランプ大統領に銃規制を訴えた「生命の行進」が、各州で実施された。ブラック企業並みの待遇のウェストヴァージニア州の教職員が、待遇改善を求め全米でストライキし、待遇改善させた。バーニー・サンダースやアレクサンドリア・オカシオ=コルテスなど民主党の従来の政策にとらわれない草の根運動を支持基盤にした新たな政治家が政治活動組織「私たちの革命」を結成し、「私たちの革命」から出馬した政治家が先の予備選挙で多数当選し民主党やトランプ政権に多大な影響を与え始めている。
ある政治家が言うように、「国民を団結させないために政治家は分断を謀る」。
民意が反映されにくい選挙人制度の問題にまで踏み込み、違うように見えて関連性のある社会問題を通じた草の根運動の繋がりにより、市民運動の圧力によって形骸化した民主政治を変える起爆剤になるかもしれないと思えるドキュメンタリー映画。

daiyuuki 全身当事者主義

全身当事者主義。ワーキングプアや毒親やブラック企業などのパワハラやモラハラに苦しみ戦い続けてきた立場から書いた、主にメンタルヘルス、LGTB、ヘイトスピーチ、映画やライブのレビューなどについてのアメブロの記事から、厳選して共有していきたい記事だけ、アメブロと連携します。 クリエイターリンクは、こちら↓ https://lit.link/daiyuuki

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