「ロッキー」サーガは、シルベスター・スタローンの人生そのもの
シルベスター・スタローンの当たり役ロッキー・バルボアを主人公にした「ロッキー」シリーズは、シルベスター・スタローンの人生を反映した映画シリーズである。
シルベスター・スタローンは、映画スターを目指しオーディションを受けたり映画の脚本を執筆して映画会社に持ち込むが、なかなか突破口を開けなかった。
スタローンが描きたかったのは、「ヒロイズム」「人間の尊厳」「大いなる野望」についてのストーリーだった。アイデアはたくさんあるけどなかなか上手くストーリーにまとめられなかったスタローンは、インスピレーションを求めてあるボクシングの試合を見た。モハメッド・アリVSチャック・ウェプナー戦。
チャック・ウェプナーは当時35歳でボクサーだけでは食っていけず昼は酒屋の配達、夜は警備員をやっている無名のボクサーだった。
下馬評では、ウェプナーは2ラウンド持たないと言われていた。ところが、ウェプナーはモハメッド・アリを相手に粘り強く戦い、一度はアリをダウンさせた。結果はアリの判定勝ちだったが、観客にとって勝者はウェプナーだった。
家賃滞納してホームレスになったり、愛犬バッカスを生活費のために売らなければと思い詰めるほど貧困に苦しんでいたスタローンはこの試合に感動して、一人のボクサーのストーリーを思いついた。それが、「ロッキー」だった。
サウスポーであるがゆえにマッチメイクに苦しみ、ボクサーでは食っていけず場末の賭け試合や高利貸しの手下として生きるくすぶった日々を過ごすロッキー・バルボアに、スタローンは喧嘩で荒れ不良になったりなかなかオーディションに受からず様々なアルバイトして食っていた雌伏時代の自分を投影させた。
またロッキーとエイドリアンの関係には、スタローンと役者になる夢をサポートしてくれた妻サーシャとの関係を投影させた。
それだけにロッキーに並々ならぬ思い入れがあるスタローンは、映画会社から35万ドルでロッキーをスターが演じる条件でオファーされても、「ロッキーを自分が演じるのでなければ、脚本は売らない」と粘り、主演俳優のギャラは俳優組合の最低ランクで脚本料は2万ドル製作費は100万ドルで製作を認めさせた。
スタローンの肉親などがスタッフに参加し衣装は借り物か自前で賄い苦労も多かったが、「ロッキー」は大ヒットし、アカデミー賞作品賞監督賞編集賞を受賞し、スタローンは一夜にしてスターの仲間入りをした。
「ロッキー2」では、スタローンがロッキーのイメージに縛られるのを嫌がり自作の脚本による社会派映画「フィスト」や自伝的なスポ根もの「パラダイス・アレイ」に挑戦するも失敗したり名声を得たゆえに経験した辛酸を投影させた。
その後、刑事アクション「ナイトホークス」や「勝利への脱出」で再び役柄の幅を広げようとするが失敗したスタローンは、「ロッキー3」でロッキーに3度び挑むにあたって、経済的に豊かになり慢心してしまったりハングリー精神を失いかけた自分を投影させ、ロッキーのスタイルも前作までのがっしりしたスタイルではなくスリムなマッチョ体型にアップデートした。
「ロッキー4」では、スタローンが「勝利への脱出」で撮影したハンガリーやソ連旅行で体験した圧迫感から再確認した自分の愛国心とスポーツの国際大会が国同士の代理戦争になっていることに対して思うことを投影させた。
「ロッキー5」の失敗が心の中で燻っていて、コメディに挑戦した「オスカー」「刑事ジョー ママにお手上げ」が不発に終わり、「クリフハンガー」で再ブレイクするが、「デモリッションマン」「暗殺者」「デイライト」「スペシャリスト」がスマッシュヒット止まりで、アメコミ映画「ジャッジ・ドレッド」が不評に終わり、ロバート・デ・ニーロやハーヴェイ・カイテル相手に演技力をアピールした「コップランド」が好評だったものの、キャリアが低迷していたスタローンは、ジョージ・フォアマンが引退して20年後復帰してヘビー級チャンピオンに返り咲きを果たしたことに感銘を受け、ロッキーが引退から復帰し現チャンピオンに挑戦するストーリーで、キャリアの建て直しと「自分はまだまだ終わっていない」ことを証明するため「ロッキー」シリーズ最終作に挑んだ。
それは、ロッキーが劇中でリトル・マリーの息子ステップスやロッキーの息子ロバートに自らの生きざまを見せることで不屈の魂を教えるように、自尊心と尊厳と不屈の魂を失くしかけた若者に対してのスタローンのメッセージを含んでいた。
そしてスタローンは、エイドリアンの死の癒えない痛みに苦しむロッキーがボクシングを再開していく中で生きる気力を取り戻していく心情に、息子セイジの死に苦しんだ当時のスタローンの心情を投影させた。
そして「クリード」シリーズでは、スタローンだけでなく監督のライアン・クーグラーの思い入れも込められたものになりさらなる広がりを見せ、「クリード2」でのドラゴには離婚やキャリア低迷など辛酸を舐めたドルフ・ラングレンの経験が反映されている。
スタローンの思い入れや人生が反映されているからこそ、ロッキー・バルボアにリアルな人間的な魅力が与えられ長年愛され続けている。
「人生ほど重いパンチはない。だが大切なのはどんなに強く打ちのめされても、こらえて前に進み続けることだ。そうすれば勝てる。自分の価値を信じるなら、パンチを恐れるな」
参考図書
「炎の男スタローン」ジェフ・ロビン
映画秘宝2月号の歴代ロッキー完全クロニクル
0コメント