映画「新聞記者」 日本アカデミー賞受賞作
記者クラブ内の忖度や同調圧力に屈しない東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。 公文書の認可先は、何故か文科省ではなく内閣府。
日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、上司の陣野(北村有起哉)から託され真相を究明すべく調査をはじめる。
一方、内閣情報調査室官僚・杉原(松坂桃李)は葛藤していた。
「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、内部告発した文科省元トップの女性スキャンダルのリークや総理番記者に暴行されたことを告発した女性ジャーナリストの証言の信用を失墜させるために与党ネットサポーターを使い「女性ジャーナリストの弁護士が野党議員と繋がりがあり与党のイメージダウンのため告発した」というフェイク情報を内調が作成した人間関係のチャート図などをソーシャルメディアや掲示板に流すなど、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロールと世論操作。
愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎(高橋和也)と再会する。
神崎は、新人時代の杉原に公務員のあるべき姿を教えてくれた恩義ある先輩。
神崎は、5年前にある不祥事の責任を負わされ失脚し、今は内閣府で別の案件を担当している。
杉原と神崎は、思い出話に花を咲かせながら楽しく呑み明かす。
だが、その数日後、神崎は杉原に「杉原、俺たちは一体何を守って来たんだろうな」と謎めいた言葉を残しビルの屋上から身を投げてしまう。
独自の取材で真実に迫ろうと神崎に迫りつつあった吉岡は、神崎の死に衝撃を受けながらも、神崎の遺品から「内閣府肝いりで認可された医療系大学」の真相の糸口をつかむ。
神崎が内部情報告発者であることを知った杉原は、内閣府の同僚から「内閣府肝いりで認可された医療系大学」に隠された「闇」を知る。「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる!
原案は、望月衣塑子の著書を元にした。
望月衣塑子東京新聞記者は、2004年に日本医師会の自民党に対する闇献金疑惑をスクープしたり、防衛省の海外への武器輸出や大学との軍事的研究、最近では現政権内閣の数々の疑惑を追及している気鋭のジャーナリスト。
この映画の中で描かれる内閣調査室による情報操作や官邸に都合の悪い人物の社会的信用を失墜させるためのデマやスキャンダルを流す手口の描写は、加計学園設立に「総理のご意向によるもの」と記載された文書が文科省に存在すると実名で告発した前川喜平氏に対するスキャンダル報道や安倍首相総理番記者に暴行されたことを告発した伊藤詩織氏に対する「伊藤詩織氏の弁護士は野党議員と繋がっている。この告発は与党のイメージダウンを狙った裏工作だ」という怪しい陰謀説と情報操作された人間関係のチャートがTwitterなどのソーシャルメディアや掲示板で拡散されて伊藤詩織氏が殺害予告や誹謗中傷に苦しめられた件などをベースにしているだけに、背筋が凍るような怖さとリアルさがある。
「誤報を流した」という汚名を被って自殺した父親の思いを背負い「真実を追うこと」にこだわる吉岡記者、家族と組織の板挟みで苦悩しながらも吉岡に協力する杉原それぞれの葛藤や真実を暴こうとする苦闘、ヒューマンドラマと社会派サスペンスが見事に組み合わさり、骨太な仕上がりになっていて、情報操作により「見えない羊」にしつけられつつある日本国民や官邸の忖度に従うマスコミに「これでいいんですか?」と突きつける強烈なメッセージ性があり、シム・ウンギョンの愚直な演技や家庭と組織の板挟みに悩み葛藤する心情を演じ切る松坂桃李の繊細な演技が印象的で、個人と組織の板挟みになりながら守りたいものを問う骨太な社会派ヒューマンサスペンス映画。
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