何者 「何者」かになろうとした青春が終わり、「大人」として生きる人生が始まる

ひとつの部屋に集まった5人の男女。
大学の演劇サークルに全力投球していた拓人(佐藤健)、拓人がずっと片想いしている瑞月(有村架純)、瑞月の元カレで拓人とルームシェアしている光太郎(菅田将輝)、拓人たちの部屋の上に住んでいる瑞月の友達の理香(二階堂ふみ)、就職活動はしないと宣言する理香と同棲中の隆良(岡田将生)
理香の部屋を「就職活動対策本部」として定期的に集まる5人。それぞれが抱く想いが交錯し、徐々に人間関係が変化する。
やがて仲間から内定を受けた者が出た時、これまで抑えられていた嫉妬や本音が、露になっていく。
いま彼らの青春が終わり、人生が始まる。
朝井リョウの直木賞授賞作を、「愛の渦」の三浦大輔が映像化。
前半は、拓人と光太郎がルームシェアするきっかけなどの過去と拓人たちの就職活動に奮闘する現在(拓人と光太郎が協力してweb試験に挑んだり、拓人がグループディスカッションに参加したり試験を受けている姿などを通じて就職活動の実態を丁寧に描いている)が錯綜しながら、拓人たちの就職活動の仲間同士の本音と建前の使い分け(意識高い系の理香の学生特有の肩書きが並んだ名刺を拓人と光太郎が笑い飛ばしたり、表向きは情報交換しながら相手の就職試験の情況や本命の会社を探ったり牽制し合うなど)や嫉妬(仲間が内定していても表向きは内定を喜びながらさりげなく嫉妬を表現したりなど)や読書家ではない光太郎が出版業を就職活動する訳や瑞月の光太郎に対する想いや「就職活動しなきゃならない世の中の流れに乗りたくない」と言いつつ隠れて就職活動している隆良の空虚なクリエイター気取りと就職試験のグループディスカッションで自説を滔々と述べる理香の前向きが空回りしたイタさや光太郎たちには演劇を扱う企業は受けないと言いつつ隠れて演劇を扱う企業を就職活動している拓人のイタさが徐々に浮かび上がり、
ここからはネタバレです。
拓人がTwitterのもうひとつのアカウントで、密かに拓人の元演劇仲間のギンジや就職活動仲間の理香や光太郎や隆良の分析をして笑い飛ばしたり冷笑していたことを、あるタイミングで理香に見られてしまい、「あんたは誰かを観察して分析することで何者になった気でいる。そんなことをしていても意味はない」「自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしか出来ない。それがみんな分かっているから、痛くてカッコ悪くても頑張るんだよ!」と強烈なダメ出しをされる(その後の別アングルの回想シーンで描かれる拓人がTwitterのもうひとつのアカウントで書き連ねていた仲間に対する醜悪な本音、そしていつの間にか、拓人が今までの言動を舞台のように観客から見られて、観客の中に瑞月がいることを拓人が発見するシーンは、舞台出身の三浦大輔監督らしい演出と恐さ)。誰に何を言われても毎月公演をし続けているギンジを認めるのが恐くて見に行けなかったギンジの公演を拓人が観覧して、未熟でもイタくても足掻いて現時点での10点でも20点でも自分の中から絞り出して頑張ろうと決意したことが、ラストの就職試験の面接で感じられる爽やかな後味、エンディングで流れる中田ヤスタカと米津玄師がコラボレーションした主題歌の歌詞「大根役者でいいとして、台本通り踊れなくて、ただ真っ直ぐ段を登っていけ」「大胆不敵に笑っていたって、心臓はまだ震えていて、それでもまたあなたに会いたくて、下手くそでも向かえ遠く向こうへ」は、就職試験だけでなく「何者」かになろうと人生を生きる人に対するエールを送られているようです。現代的な観察者・拓人を演じた佐藤健、明るく人当たりの良い光太郎を演じた菅田将暉、前向きが空回りするが本質を突く理香を演じた二階堂ふみ、明るく屈託がないが複雑な事情を抱える瑞月を演じた有村架純、クリエイター気取りのイタさのある隆良を演じた岡田将生の若手演技派俳優の見応えのあるアンサンブルの舞台劇のような見事さ、表向きは前向きに自分の本音を脚色したツイートして自己承認欲求を満たしながら裏アカウントで嫉妬や憎悪を吐き出さないと負の感情を処理出来ず負の感情が暴走しやすいソーシャルメディアの恐さ、就職活動を通じて自分の人生の道を模索する若者のリアルな青春を描いた傑作ヒューマンドラマ映画です。
「青春が終わる。人生が始まる」

daiyuuki 全身当事者主義

全身当事者主義。ワーキングプアや毒親やブラック企業などのパワハラやモラハラに苦しみ戦い続けてきた立場から書いた、主にメンタルヘルス、LGTB、ヘイトスピーチ、映画やライブのレビューなどについてのアメブロの記事から、厳選して共有していきたい記事だけ、アメブロと連携します。 クリエイターリンクは、こちら↓ https://lit.link/daiyuuki

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