すばらしき世界　鬼才・西川美和が前科者の目線から問う不寛容な世界

13年の刑期を終え、目まぐるしく変化する想像もつかない世界に出てきた元・殺人犯の三上（役所広司）は、保護司の庄司夫妻（橋爪功・梶芽衣子）の助けを借りて自立を目指していた。

三上が生き別れた母親を探していると、テレビディレクター津乃田（仲野太賀）とプロデューサー吉澤（長澤まさみ）が接触してくる。

彼らの本当の目的は、社会に適用しようと足掻く三上の姿を面白おかしく番組にすることだった。

まっすぐ過ぎるが故にトラブルが絶えない三上だったが、次第に彼が持つ無垢な心に感化された人々が集まってきて……。 

 直木賞作家・佐木隆三の小説『身分帳』を原案として、「永い言い訳」の西川美和が舞台を現代に移し映画化。

天涯孤独で一生のほとんどを刑務所で過ごし、その真っ直ぐなカッとなりやすい性格から刑務所で度々懲罰をくらい出所出来なかったこともあり、ヤクザから足を洗う覚悟をした三上は、保護司の庄司夫妻の支えや支援で生活保護を受けて運転免許を取り就職して「カタギ」になろうとする苦闘をシリアスとユーモアをちょうど良いバランスで描く前半部分は、運転免許試験に苦労したり生活保護を受けることが難しかったりスーパーで万引きを疑われたりしながらも三上の真っ直ぐで不器用な人間的魅力に惹かれた生活支援課のケースワーカーの井口（北村有起哉）やスーパーの店長（六角精児）や津乃田や庄司夫妻の支えや絆が歯止めになりながら更生しようとする奮闘が、三上がいつキレるかハラハラしたり三上が運転免許試験が上手くいかないところなどが笑えたり三上の危険なところを知りながらも真っ直ぐな人間性に惹かれた井口やスーパーの店長や津乃田と三上の友情や絆にほっこりするヒューマンコメディパート。

一時的にかつての兄弟分に身を寄せるが、庄司夫妻や井口の尽力でやっと更生への一歩を踏み出した三上が、後半で直面する社会人として生活する上で飲み込まなければならない理不尽は、西川美和監督が「普通に社会で生きるために理不尽から目を閉じて背けて呑み込み成り立つ世界はどうですか？」という皮肉めいた問いかけが映画のタイトルの意味を含めて込められていて、コロナ禍の中でますます不寛容さを増していく社会や社会的弱者を消費するマスコミを問い、三上や津乃田と子供たちが楽しくサッカーをするシーンやラストの青空が忘れがたいヒューマンサスペンスコメディ映画。

「今度ばかりはカタギぞ」